相続税は、相続財産が一定額以上あると申告が必要になります。
「相続税申告書を自分で作成するのは難しそう」と思われる方もいらっしゃいます。しかし相続財産が「預金のみ」の場合や「預金と自宅のみ」の場合など、相続財産の数が少なく、複雑でなければご自分で作成することもできます。
税理士に依頼する場合であっても「どのように相続税申告書を作成するのか」を分かっていれば、税理士の説明を簡単に理解できるでしょう。
ここでは「相続税申告書がどのような順番で、どのように作成していくのか」について詳しく解説します。なお、使用している記載例については、原則として以下のサイトから流用しています。
【出典】「相続税の申告書の記載例」|国税庁
1.相続税申告書を作成する準備
相続税申告書は、他の相続手続きをある程度まで進めなければ作成することができません。
相続税申告書の作成を行うためには、少なくとも次の3つの手続きを完了させましょう。
1-1.作成までに必要な手続き
- 相続人の確定
戸籍などで、誰が相続人になるのかを確定させます。 - 相続財産の確定
預貯金や不動産など、亡くなった人の相続財産を調査し、財産に応じた必要書類を集めます。 - 遺産分割協議を行う
相続人と相続財産を確定させたら、誰が何を相続するのかを相続人全員で話し合います。もし、相続税申告期限までに協議がまとまらなければ「未分割」で相続税申告書の作成を行うことになります。ただし、遺言による相続であれば遺産分割協議は必要ありません。
1-2.作成に必要な書類
相続税申告書の作成には、添付書類として次の書類が必要になります。事前に集めておきましょう。
- 遺言書のコピー又は遺産分割協議書のコピー(全ての遺産を法定相続割合で分割する場合は不要)
- 被相続人の戸籍謄本等(出生から死亡まで)
- 被相続人の住民票の除票
- 被相続人の戸籍の附票
- 相続人全員の戸籍謄本
- 相続人全員の住民票
- 相続人の戸籍の附票
- 相続人全員の印鑑証明書
- 相続人全員のマイナンバーカードのコピー(番号確認のため)
- 相続人全員の身元確認書類のコピー(マイナンバーカード可)
上記の他、財産に応じて残高証明書や不動産の登記簿謄本などが必要になります。
2.相続税申告書の書き方の順番
相続税申告書は第1表から第15表までで構成されています。全てを記載しなければならないというわけではなく、相続財産の種類や適用する特例によって記載が必要な書類が異なります。
作成の順番は、第1表から数字通りに進めていくのではなく、次の順番で進めていきます。
- 相続財産の情報を記載するパート:第9表から第15表
- 納付する相続税額を記載するパート:第1表から第2表
- 適用する控除を記載するパート:第4表から第8表
3.①相続財産の情報を記載するパート
相続財産の情報を記載するパートでは、第9表から第15表までを作成します。それぞれ見ていきましょう。
3-1.第9表「生命保険などの明細書」
第9表は「生命保険金、損害保険契約の死亡保険金、特定の生命共済金」の受け取りがあった場合に記入が必要になる書類です。
書類の構造は2つに分かれており、上段(記載例の①)に生命保険会社の所在地、名称、受け取った年月日、保険金額、受け取った相続人の氏名を記載します。
下段(記載例の②)は、保険金の非課税限度額を計算する欄となっています。生命保険金には500万円×法定相続人分の非課税枠があり、ここで各相続人が受け取った保険金をもとに各人の非課税金額の計算を行います。
3-2.第10表「退職手当金などの明細書」
第10表は、勤務先から死亡退職金が支払われた場合に記載する書類です。
第9表と同じような作りになっており、上段(記載例の①)に勤務先の住所、会社名、受取日、退職手当金の名称、金額、受取人(相続人)の氏名を記載します。
下段(記載例の②)には、非課税限度額を計算します。死亡退職金には生命保険金と同様に500万円×法定相続人分の非課税枠が設けられています。
3-3.第11・11の2表の付表1「小規模宅地等についての課税価格の計算明細書」
相続税の特例の1つで、ご自宅の宅地の評価額を最大80%減額できる「小規模宅地等の特例」の適用を受ける場合に必ず必要になる書類です。
ご自宅の宅地が特定居住用宅地に該当すれば、付表1の作成だけになりますが、対象の宅地を2名以上で相続する場合や、対象の宅地が「貸家建付地」である場合には、追加で「付表1(別表)」の作成が必要になります。
付表1は以下3つのパートに分かれています。
①は特例の適用にあたっての相続人の同意の欄で、特例を利用しない相続人の氏名も記述する必要があります。
②には、特例を受ける相続人、特例の対象になる土地の情報を記載し、③には小規模宅地等の面積の合計を記載します。
第11・11の2表の付表1
第11・11の2表の付表1(別表1)
3-4.第11表「相続税がかかる財産の明細書」
第11表には、相続税がかかるプラスの財産全てを記載します。ただし、相続時精算課税制度を適用した財産は「第11表の2表」に記載するため除かれます。
生命保険と死亡退職金については非課税限度額を差し引いた後の金額、土地については小規模宅地等の特例適用後の金額を記載します。
書類の構成は以下3つのパートから成ります。
①には遺産の分割状況を記載します。既に遺産分割が行われている場合は、全部分割に丸をし、遺産分割協議の日を記載します。
②には財産の情報を記載します。
③には、相続人ごとの取得財産の総額を記載します。
3-5.第13表「債務及び葬式費用の明細書」
第13表にはマイナスの財産、被相続人の葬式費用を記載します。
債務の情報や葬式費用の情報を記載し、最後に相続人の中で誰が負担するのかを記載します。
3-6.第15表「相続財産の種類別価額表」
第15表は「相続財産のまとめ」の表です。
第11表から第13表(生前贈与加算、特定の寄付があれば第14表)までに記載した財産の価格を相続人ごとに記載し合計額を算出します。
主に第11表で記載した財産と第13表で記載した債務・葬式費用からの転記になります。
4.②納付する相続税額を記載するパート
納付する相続税額を記載するパートは、第1表と第2表になります。
4-1.第1表 相続税の申告書(上部)
第1表は、相続税申告書全体のまとめになります。
申告書提出日、提出先、相続開始年月日、各相続人の情報と取得した課税価格の金額を申告書上部(記載例①)に記載します。
課税価格の計算欄は、第11表から第13表(第14表があれば第14表まで)を転記します。
第1表の下部は、相続税の計算になるため、他の表を作成した後に記載することになります。
4-2.第2表 相続税の総額の計算書
第2表は、2つのパートに分かれており、上段(記載例の①)で課税価格の合計から基礎控除を差し引き、課税遺産総額を求めます。
下段(記載例の②)では、法定相続分に応じた割合で各相続人に分配した時の「相続税の総額」を求めます。あくまでも法定相続分であるため、実際の遺産の取得割合とは関係ありません。この相続税の総額が、納付する相続税の基礎になります。
5.③適用する控除を記載するパート
第2表で計算した相続税の総額を求めたら、各相続人が受けられる控除や加算しなければならない税額を、第4表から第7表を使って算出します。
- 第4表 相続税額の加算金額の計算書
相続人に配偶者と一親等の血族がいる場合は、第4表を使い相続税の2割加算を計算します。- 第5表 配偶者の税額軽減額の計算書
相続人に配偶者がいる場合は、1億6,000万円または法定相続分までは相続税が課税されない「配偶者の税額軽減」が利用できます。- 第6表 未成年者控除額・障害者控除額の計算書
相続人に未成年者・障害者がいる場合は、一定の控除を受けることができます。- 第7表 相次相続控除額の計算書
10年以内に別の相続が発生していた場合、前回の相続税額のうち一定額を今回の相続で控除することができます。
6.相続税額の計算
6-1.第1表 相続税の申告書(下部)
相続税額の加算額や控除額の算出ができたら、第1表の下部で最終的な相続税を算出します。
まとめ
相続税申告書はご自分で作成することも可能です。
しかし、財産の種類や金額が多いと作成のハードルは高くなり、専門知識がなければ正しい申告書を作ることができません。特に遺産に土地が含まれていると、税理士によって評価額が異なるほどです。
申告書の作成が難しいと感じた場合は、早めに専門家である税理士に相談されることをおすすめします。
当事務所は、相続税についての税務を得意としています。相続税対策から申告までお悩みの方は、お気軽にご相談ください。