遺言は被相続人が、遺された人たちに伝える最後のメッセージです。同時に、財産を相続させる・遺贈することで、相続人や受遺者に対して遺産を分配する法的効果もあります。
遺言を遺せば、妻にはご自宅を、長男には株式を、次男には現預金をというように具体的な財産を相続させることができます。その他にも、1/3は妻に、1/3は長男に、1/3は次男にというように割合を決めて相続させることもでき、長男に遺産分割を一任することも、3年間は遺産分割を行わないといった指定をすることも可能です。
遺言者は、遺言による意思表示で、自由に財産を処分することができるのです。
1.遺言の作成はなぜ相続に重要なのか
下図からおわかりいただけように、遺言がなければ遺産分割協議経て遺産を分割しなければなりません。
遺産分割では、相続人同士の仲が良かったとしても、互いの利益が相反してしまいます。そのため、遺産分割協議では、権利と権利が衝突し、争いが起こることは珍しくありません。
翻って、遺言があると原則として遺言通りの遺産分割がなされます。
遺言は被相続人の最後のメッセージであり、多くの相続人は、その言葉に重きを置くでしょう。相続人間で多少の不満はあっても相続人間で遺言通りに遺産を分割できれば、遺言の効果は絶大ということになります。
2.遺言の種類
遺言には、「自筆証書遺言」、「秘密証書遺言」、「公正証書遺言」の代表的な3つの種類があります。この3種類は、普通方式の遺言と呼ばれています。
ここでは、この3つについて触れておきます。
(1)自筆証書遺言
自筆証書遺言とは、遺言者が全文を自筆で作成する遺言書です。ただし、法改正によって、遺産目録はワープロやパソコンで作成できるようになりました。
また、自筆証書遺言を法務局で保管してもらえる制度も設けられ、この制度を利用すると、裁判所の検認も不要となりました。しかし、法務局に保管してもらったとしても、自筆証書遺言の内容までチェックしてくれるわけではありません。
法務局出の保管制度を利用しない場合に問題となるのが、遺言の保管場所です。相続人に預けると隠匿や偽造・変造の原因となりかねません。かと言ってわかり難いところに隠すと、発見されない可能性もあり、遺産分割後に発見されると、遺産分割に影響を与える可能性もあります。
そのため、自筆証書遺言を作成したら、相続人以外の信頼できる人に保管場所を伝えておくといいでしょう。
(2)秘密証書遺言
秘密証書遺言の作成には、次の工程が必要です。
- 遺言者が遺言書を作成、署名・押印する(遺言書が自筆である必要はありません)
- 遺言書を封筒に入れ、遺言で使った印鑑で封印
- 遺言者が遺言の入った封筒を公正役場に持参する
- 公証人・証人2人の前に遺言の入った封筒を提出し、自分の遺言である旨、氏名・住所を申述する
- 公証人が、遺言が提出された日付、遺言者の申述内容を封筒に記入する
- 公証人・証人2人・遺言者がそれぞれ封筒に署名・押印する
秘密証書遺言にするためには公証役場でのプロセスが必要なため、公正役場に作成の記録は残りますが、遺言を公証人がチェックすることもないため、不備があっても訂正されることはなく、要件を満たしていなければ無効になってしまいます。
また、秘密証書遺言は、遺言者自身が保管しなければなりません。
秘密証書遺言には、このようなデメリットがあるため、あまり利用されていないのが実情です。
(3)公正証書遺言
公正証遺言とは、公証役場で公証人が遺言者の口述をまとめた遺言書のことを指します。
遺言者は、遺言作成の前に公証人とどのような内容の遺言にしたいのか打ち合わせをし、遺言の作成に備えます。遺言の作成には、証人2人が必要となります。当日は、以下の流れで遺言を作成します。
- 遺言者が遺言の内容を口述し、公証人が遺言の内容を筆記する
- 公証人が遺言の内容を遺言者・公証人2人の前で読み聞かせる(又は閲覧させる)
- 遺言者・証人2人が筆記に間違いないことを確認し、遺言書に署名・押印する
- 公証人が公正証書遺言の方式に従って作成されたものである旨を付記し、署名・押印する
- 公証人が原本、正本、謄本の3通を作成し、原本を公正役場で保管、正本・謄本は遺言者が持ち帰る
自筆証書遺言に比べ、公正証書遺言は作成に公証人への報酬が生じます。また、手間もかかります。しかし、公証役場に保存されている遺言を確認することができ、検認手続き無しで有効な遺言として使用することが可能です。
なお、公正証書遺言を作成するには、本人確認資料として印鑑登録証明書ほか必要になる書類があります。ご自分で作成したい方は、ご希望の場所どこの公証役場でも手続きが可能ですので、ご確認ください(ただし、公証人の出張を望む場合には、公証人は都道府県を跨ぐことはできません)。
3.遺言を作成する際の留意点
次に、遺言を作成する際の留意点についてご紹介します。
(1)遺言は判断能力があるうちに作成しておく
遺言者が認知症を患うなど判断能力を失ってから遺言を作成しても、無効となってしまいます。いざという時に困らないように、遺言は、判断能力に問題がないうちに作成しておくべきです。
弊所でも、遺言書作成前に遺言者が交通事故に遭ってしまい、ご苦労された相続人の案件を扱ったことがあります。
アパートを経営するAさんには、配偶者とお子様である兄妹がいらっしゃいました。遺産分割についての考えを遺言で示してほしいとの兄妹の強いご希望により、弊所はAさんと遺言作成のお約束をしていましたが、不幸にも作成前に交通事故に遭い、判断に支障を来すようになられてしまいました。息子さんには、何とか遺言書を作成できないかと懇願されましたが、判断能力を喪失して遺言を遺したとしても、法的には無効になってしまいます。
このケースでは、奥様と兄妹の3人で遺産分割協議を行うことで事なきを得ました。しかし、事故に遭わずとも、認知症を患うなど判断能力を失うような事態が発生する確率は決して低くはないでしょう。
いざという時に困らないように、遺言は、判断能力に問題がないうちに作成しておくべきです。
(2)遺言作成時には遺留分に配慮が必要
遺言の内容は、できるだけ偏りのない公平なものにすべきです。偏った内容の遺言は、わざわざ相続争いの原因を作っているようなものだからです。
偏りのない内容の遺言にするためには、各相続人の各相続人の遺留分について配慮することを忘れてはいけません。相続人の遺留分を侵害した遺言は、かえって相続人に争いの火種を遺してしまいます。
遺留分割合について
遺留分とは、遺産の最低限の取得割合を相続人に保障する制度で、相続人の生活保障を目的に、被相続人が極端な財産処分をすることに一定の歯止めをかけています。
民法の規定では、被相続人の兄弟姉妹には遺留分がなく、遺留分の割合は次の通りとなります。
遺留分の割合
- 直系尊属のみが相続人の場合:遺産の1/3
- 上記以外の場合:遺産の1/2
上記、遺留分の割合に従って算出すると、各相続人の遺留分は下表の通りとなります。
相続人の組み合わせと相続分・遺留分
相続人が配偶者と直系卑属のとき:
相続人が配偶者と直系尊属のとき:
相続人が配偶者と兄弟姉妹のとき:
相続人が直系卑属のみのとき:
相続人が直系尊属のみのとき:
相続人が兄弟姉妹のみのとき:
遺言の作成は遺留分を配慮して
遺言によって遺留分を侵害された相続人は、遺留分を侵害した相続人や受遺者・受贈者に対して遺留分侵害額請求を行うことができます。
遺留分侵害額請求を受けた者は、遺留分相当の金銭を支払わなければならず、相続した財産が不動産の場合に、遺留分相当の金銭がなければ売却しなければならない可能性もあります。また、遺留分の額を算出するにあたり、相続財産の評価について請求者と侵害者で、意見が対立する可能性は高くなります。
遺言が相続人の遺留分を侵害していると、このような争いの火種を相続人に遺してしまうのです。
(3)遺言は公正証書で作成を
遺言を作成する場合には、公正証書遺言をお勧めします。
公正証書遺言は、遺言内容を公証人に相談できることが大きな理由の1つです。公証人には、検事や裁判官を歴任した法律のプロが就任しており、こうした法律のプロが遺言についてアドバイスもしてくれます。
一方、自筆証書遺言には、遺言者の意思能力の有無から日付、氏名、押印、加除変更方法まで法律上の規定が多く、遺留分まで含めた法的問題をクリアするのは、遺言者1人では荷が重すぎるのです。せっかく自筆で書いた遺言が、無効になってしまえば取り返しがつきません。
人生最後の大切な文書である遺言は、多少費用がかかったとしても安全で確実な方法で作成すべきでしょう。
(4)遺言の作成に抵抗がある場合
弊所では、「遺言を書くことに抵抗がある」という方のために、家族信託をお勧めすることがあります。
家族信託では信託契約で定めることで、財産を承継させる機能があり、遺言の代用としての利用が可能です。
判断能力が低下する前に家族信託の契約をしておけば、遺言に抵抗のある方も、無理なく財産を承継することができます。
(5)相続税申告における遺言の効力
相続人全員の合意があれば、遺言と異なる遺産分割も可能になります。ただし、その遺産分割協議が相続税の申告期限に間に合わないとった事態が発生することもあります。
「A不動産はBに相続させる」、「預貯金はCに相続させる」といった「特定財産承継遺言」が遺されており、申告期限に間に合わない場合には、遺言に沿った分割による申告を行うことになります。「特定財産承継遺言」が遺されていると、相続開始と同時にそれぞれの遺産が、各相続人に直ちに帰属すると考えられるからです。
一方で、「全財産の1/2を妻に、残り1/2を1人息子Cに相続させる」といった「包括的な財産承継」を意図した遺言が遺されていると、遺産分割が必要となり、期限までに法定相続分での申告をした後、修正・更正の請求ができると解されています。
このように遺言には、相続税の申告において遺産分割が強制されるという効果もあるのです。
(6)遺言作成は専門家に相談する
遺言を書く際に、親族に相談するのは抵抗がある方もいらっしゃるでしょう。そんな場合には、専門家に相談してみてはいかがでしょうか。
弊所では、弁護士、税理士、ファイナンシャルプランナーなどが専門的立場からお話をお伺いすることで、法務、税務の両面から問題のない遺言の作成をお手伝いさせていただきます。
法務の面からは、遺言内容が遺留分を侵害しないよう、事前に生前贈与を検討させていただくのもその一例です。ただし、適切なプロセスのもと、後々トラブルにならないよう慎重に行わなければなりません。
税制面からは、二次相続での遺産分割まで考慮して、相続税の節税に繋がるように遺産の配分を検討します。また、節税には欠かせない「小規模宅地等の特例」についても最大限の適用ができるように不動産を調査いたします。
遺言の作成には、是非、専門家の活用をご検討ください。
4.相続シミュレーションをご利用ください
相続トラブルを避けるためには、生前から相続についての相談を専門家と行っておくと効果的です。相続人の調査、相続財産調べ、生前贈与の有無、債務の有無、相続人の家庭環境、経済状況、二次相続とのバランス、節税効果、納税資金の問題等を事前に調査し、どのような遺産分割が最も適切なのかをシミュレーションいたします。
相続のシミュレーションをすると、財産の明細や数字が明確になって漠然としていた相続に現実感がともなってきます。
知識・経験を持った第三者によって客観的に現状を把握してもらい、安心した相続を実現するためには、実績ある専門家に依頼されることをお勧めします。弊所でも、相続シミュレーションを行っております。是非、ご活用ください。
5.遺言の作成はお早めに
遺言は、意思能力のある15歳以上の方なら誰でも書くことができます。しかし、高齢になると判断能力が衰えて遺言を書く能力を疑問視され、認知症と診断されると、遺言を書いても無効になってしまう可能性が高くなってしまいます。
遺言は、最後に遺せる相続人達へのメッセージです。明確に意思表示のできるうちに作成しておくことをお勧めします。
当事務所では、遺言作成のサポートを積極的に行っております。以下の電話番号かメールからお気軽にお問い合わせください。